健康管理と病気 

健康管理と病気 

                                                      鈴木弥太郎

 海外を旅行中、特に熱帯ないし亜熱帯とよばれる方面を旅行していて発病する確率は、その旅行日数に比例して高くなる。
 長い間、旅をしたあとの病気であれば、その原因を知る事は、そう簡単なことではない。
それに先に行く程に落ちこんで行く自分の体力との兼ねあわせも、考えに入れなければならない。

 通常日本で暮らしている程度の体力なら、そう簡単には、かかりはしないような疾患でも、小銭を数えながらの生活を続けるょうになってみると、じつに簡単に体調を崩したり、病気になったりする。
そうしたいわゆる熱帯で病気にかかった場合、その病因のほとんどが、一つや二つの原因ないし、病因に依るものではなくて、いくつかのそれが重なりあった結果としての発病であるがために、適確な診断を下し、適切な処置を講ずるという事は、とりわけ早急に求められなければならない。
いうまでもない事だが、いかなる疾患にしろ、適切な処置が与えられてこそ初めて、治癒への道が開けるものである。
 何もしないよりは、当たらずとも、遠からずだろうというような生半可な判断では治癒への道は開けない。判らなければ判らないなりに、現地の医師の診断を仰ぐ方が、何にも増して有効な手段である。
旅行者間によくいわれるような、熱帯地方での現地の医者に対するいわれのない不信も、徒手空拳な我々の熱帯病への知識に比へれば、彼らが、そこの国に生きて生活してきたという事実ひとつだけをとっても、よはど説得力がある筈である。
 まして、医者となれば、それがいかにチヤチな医者と思われても、未経験な我々たったひとりの知るものよりは、より豊富な判断の材料を持っている。
 疾患を自覚したら、臆する事なく、一刻も早く、身近な医師の判断を仰ぐにこしたことはない。気に病むのは、それからでも遅くはない。
 一般に西アジアの国々での診察費は、初診料を含めてさえも、日本とは比較にならぬ程安い。手遅れになるよりは、まず門を叩いてみる事だ。
 医薬分業の国が大部分だから、診せたとたんに、どうのこうのいう事はない。診せた上で、自分の納得の行くような診断を貰えなかったりしたら、不審な点を問いただして、納得の道を講ずるなり、他の医師に再診を仰ぐなり、病気で寝つくよりは、容易で安上がりな方法はいくらでもある。

 旅行保険を掛けて出かける旅行者なら、尚更の事、一刻も早く、医師の診断を必要とする。
ふつう、旅行保険の治療費や損害金の支払い(体の損傷などに対して)AIU などで扱っている、疾病による休業保備などへの保険金支払い請求にしても、まず第一に、旅行中に被患したという証明を必要とする。
 一刻も早い医師の診断と、その証明であるところの診断書を手にする事は、被保険者の最低限の義務である。
 単純な差別感や、現地医師への不信感から必要な手投を講ぜず、「こんな所の医者に診せるくらいなら、日本に帰って、まともに診て貰うさ。」などと考えてはならない。いざ日本に帰国してからでは、その疾患が、たしかに旅行中に惹き起こされたものであるという証明をする事は、それがたとえ防疫上の指定伝染病や、よほどの重大疾患であったとしても、非常な努力を要する。保険会社が、体質的にもっている支払わない為への解釈に抗するには、昨日、今日の病みあがり人ではとうてい抗弁できる筈はない。
どんなやぶでも良いから、「Medical Certificate,Please」と頼んで、発病の日付と、珍断、それに治療に要する期間を書き込んで、診断書を手にする事だ。
そういった国々では、どうしても、迅速な保険業務を期待できず、下手をすればその為だけに旅の全日程を潰しかねない。
 やむを得ず、その場は自分の懐からの立て替え払いという事になるわけだが、診断書さえあれば、いずれ帰国した後からでも、保険金支払請求はできるし、保険の種類に依っては、その日から計算した日数に応じて休業補償費も支払われる。初期の苦労を(体力のある内に)怠ってはならない。

 それで、まず、どの医者にかかるかの目安だが、占い婆さんの治療から、人工心肺つきの大病院まで、さまざまなバラエティの専門家たちが、ひとつの身体を扱っているが、高級な保険に加入している場合を除いては、まず人工肺器付きの病院なぞにはよほどの重病や大ケガ以外はおいそれとかかれないし、占い婆さんは問題外、そこで上下両極端を除いた一応のめどとしては、まず診断書を出せてしかも英語で書ける位のクラスにした方が良い。
 そして、お金を払った場合、必ず、住所と著名人りのレシートを貰っておくこと。これは保険の有無に関わらず、ポラレを防ぐ手段にもなる。「なぜ、領収書が必要なのだ?」と開かれたら、「あとで、保険を請求するから」と嘘でもいいから答えればタチの悪い医師でも、後々の保険会社からの検査を恐れて、そうひどくはボラない。よしんば、少し位ボラれたとしても手遅れになるより、どれほど良いか知れない。
何の無駄使いよりも、身体により金をかける事が、旅をより良く続けさせる鍵となる。

 医師といっても、選択がむずかしいというのなら、その地区の保健所の居所をたずねれば、一応のレベルは保たれる。
 インドの場合は、「Health Officer(District Health Officer)」ないし、「Block Doctor」をたずねる。
眼科と歯科を除いて、たいていの必須条件をひとりで満たした医師が、このポストに任命されているので、総合的見地からの珍断を期待する事もできる。
 もし、小さな集落を旅行中で英語が通じなかったりしたら、まず「ムキャ・ジー、ムキャ・ジー(村長、村長)」と怒鳴ってその地区の長に会い、次に「ホスピタル」と「ヘルス・オフイサー」を連呼していれば、たとえ学校にも行ってなような子供に見つけられたとしても、そこに連れて行って貰える筈である。
 ネパールで発病したとして、それが、カトマンズ市内やその近くであれば大した心配はいらない。設備の整った病院がいくつかあるし、それなりのレベルを持った医師も待機している。Hospitalと呼ばれる程度の施設の、Head Cheaf Doctorは、必らずといってよいほど、欧米留学や、それに準ずる勤務をした経験を持っている。
 運悪く、カトマンズやポカラなどの大都市以外を旅行中に発病した場合は、ユニセフの援助で設けられている、「Health Post」が、ネパール全土をカバーして約80ヶ所程点在しているので、そこをたずねる事。
 ユニセフやWHOの巡回医師にめぐり会って、その診察を仰げる事もあるし、そうでないとしても一応のレベルの医師に診て貰える筈である。
 ヘルス・ポストの場所を知るには、その地区のパンチャツト(長老委貝会)にたずねれば良い。
パンチャットの建物には、白地に赤文字の看板が、ネパール国王政府の印である。王冠と、十字に組んだネパール刀のシンボルマークを囲んで描いてある。
 インドの項でそうだったように「パンチャット、ヘルスポスト!ドクター・サーフ!」と、繰り返し怒鳴っていれば、その内に誰かが、そこへ連れて行ってくれるから。



インド的下痢
Diarrhea
 まず必ずかかる。普通の下痢は2〜3日で慣れる(人間の本来の抵抗力のおかげ)。
しかし、あなどってはいけない。とてもひどい下痢もある。
余りにひどい時は他の病気を疑うこと。ホテルのマネージャーに病院を紹介してもらうと良い。
かかった場合、食当りの薬を飲んで、断食・腹部保温・水分補給などが対策として考えられる。インドで売られている「Max Firm」が良く効く。
 対策としては、絶対に生水は飲まないこと。
どんな田舎のレストラン(飯屋)でも「ボイルドウオーター(煮沸した水)」と言えば出してくれる。ない場合はチャイを飲むか、ビン入りのジュースを飲むこと。
 セイロガンなども効く時と効かない時があるが、どちらにしろ食当たりの薬は必ず日本から用意しておく事。

アメーバー赤痢
Amebic dysentery
 赤痢アメーバーによる病気。息者の便でよごれた水、飲食物をとった時にかかり。潜伏期は数日から数力月。熱もあまり出ない。1日数回から十数回の下荊があり、赤いゼリーのような粘血便を出すのが特徴。
多くは慢性になりやすく、再発する。生野菜は絶対に食べない方が良い。

狂犬病
Rabies
 もともと犬の伝染病で、その犬にかまれてうつる。
かまれたら必ずうつるというものではないが発病すると相当やばい。
潜伏期15日以上、平均30日ぐらい。初め、ふきげんになったり、沈みがちになったりし、かまれた傷のところが痛み出し、2、3日して不安になり興奮し、物を食べようとすると、のどがけいれんして飲みこめず、四肢のけいれん発作を起こしついには水を見ただけで発作がおこり死に至る。
 心あたりのある犬にかまれたら傷口から血とともに毒を押し出すようにしオキシフルでよく洗い、アルコールで消毒する。それから病院へ直行する。ワクチンがあり、毎日一回太い注射をたっぶリ2習慣ぷちこまれる。副作用がメタメタ強いから狂犬病かどうかよく確かめてから注射してもらう。
とにもかくにもおかしいと思ったら病院にすっ飛んで行く事。

破傷風
Tetanus
 傷口から、土のなかの破傷風菌という細菌が入って起こる。
感染してから1〜2時間して症状があらわれる。
 あごのけいれんがおこり、だんだん全体にけいれんがおこりはじめる。熱はあったりなかったりで、頻の筋肉がけいれんすると、笑ったような顔つきになるが、本人はそれどころのさわぎではない。
重症の場合4日以内に死亡する。一番わかりやすいのは背中が弓なりにそること。予防としては、万−けがをした場合、確実にその傷を治療する事が重要。
 発病したら発作がおこるのをふせぐために、光や音の刺激を避けた暗い部屋に寝かせ、傷のところを切り取ってしまう。同時に筋肉や脊髄のなかに多量の破傷風血清を注射したり、ペニシリンなどの抗生物質を打つ。
とにかくあごのけいれんがあったらすぐ医者のところに行くのが最良の策。

天然痘
Small Pox
 現在WHO(世界保健機構)の発表によれば天然痘の患者は絶滅したことになっている。
天然痘の病原体は天然痘ウイルスで、伝染カが非常に強く、発病すれば死亡率が高い。
天然痘はさむけ、ふるえを伴つて高熱を出し、2、3日すると米粒くらいの赤い斑点が全身にたくさん出てくる。
 やがてそれは水疱に変わり、ついで化膿してくるが真中がへこんでいるのが特徹。
11、12日目頃にはかさぶたとなり、それが取れると、あとにあばたが残り、熱が下がってくる。
疱瘡を受けた人が天然痘にかかつた場合症状が軽く、発疹も少なく、膿疱をつくらないこともある。

(昔話)
 その昔、ゴアからボンベイの船の中で友人が水ぼうそうに感染し3日後、きっちり発病しボンベイの伝染病専門専の隔離病棟(野戦病院みたいな所)に収容された。
最初、天然痘ではないかと考えたり、梅毒ではないかと疑つたりして心配したけれど、英語でチキンボックスと珍断された時は本人のみならず一同ホットした。
 ところが数日後、彼は無事退院し日本に帰国したのだけれど、検疫でなんと真性天然痘であると珍断されたのだった。
 本人と接触した人達までも、うむを言うわさず強制隔離。
インドでは水ぼうそうだと診断されたと主張はしたのだけれど、結局一大パニックを日本全国こ引き起こす結果となってしまった。
結局誤診であったが、戦後日本では絶滅した恐ろしいしい伝染病がインド帰りの旅行者が持ち込んだと大騒ぎになったが、
 
コレラ
Cholera
 源は聖なろガンガ。
コレラ菌を持った患者や保菌者の大便・吐物中の菌が直接に、または飲食物について口に入り伝染する。また、ハエは重要な媒介者。
 潜伏期は1〜2日で、早いときは1〜2時間のものもある。
症状は、軽いものは数日間、1日数回の下痢をするだけのものもあるが、重い場合には、はじめふつうの下痢だったものが急に、または1〜2回のうちに、さむけ、吐き気などがあって、コレラ特有の狂烈な下痢が始まる。
 便は黄色味がなくなり、米のとぎ汁のようになり、嘔吐も加わり、急速に衰弱がはじまる。
手足が冷たく、声もかれ、尿もはとんど出ない。
死亡率は20%〜30%と言われていたが現在では数%以下になった。

流行性肝灸
Hepatitis
 インド・ネパール・中近東方面を長く貧しく旅行する者が一度は味わうウイルス性肝炎。
これもまた死に至る病いであり最も注意を要する病気である。
 水・食物・食器などから感染する。薄伏期は2〜6週間で症状としては風邪にそっくりである。
発熱、食欲不振、倦怠感などが一週間位い続き、黄疸が現われる。便が白くなり水に浮く。
カタル性に進行した場合(カタル性肝炎)。
 目なんかまっ黄色になっちゃう。黄疸が出なくとも肝臓がはれたり、痛みがある。
特効薬はなく、安静にして、おいしいものを食べて回復を待つしかない。
ぶどう糖の注かが有効である。
 インドで売ちれている「LlV52」とビタミン剤を併用すると抵抗力がつく。
なんにもやる気がなくなっちやつてトイレなんか行くのも大変になるぐらいだからくれぐれもこの病気には各自気を付けよう。ジョイントなんか気楽にやってうつらないように.

マラリア
Malaria
 蚊に刺されることによって、その病原菌が人間の血液に寄生し発病する。
3日熱(48時間毎に悪寒発作発熱がある)、4日熱(72時間毎)、熱帯熱(不規則)に分類され滞伏期間は2週間前後。症状はこれまた風邪に頻似している。
予防としては蚊に刺されない様にする事と予防薬を服用することがある。


 コーショー旅日記
 鈴木弥太郎さんとは1975年に、カトマンズのツクチェピークゲストハウス(ホテル)で最初に会った。彼はたまたまこのホテルに泊まっていたネパール大学の数学の岡本先生に合いに来たのだが、その時に私が知り合った。彼は国連ユニセフ職員としてこの地方の医療と衛生を8年間担当しており、チベットなどにも出かけられていた。チベット語サンスクリット語を習得しており、何冊かの著作もある。ダライラマが日本に来られた時、彼がダライラマの通訳と、滞在中のお世話をした。その後ボンベイでまた偶然再会したりして、それからも色々とお世話になり、彼は私にとってインド・ネパールの先生である。
  私は、デリー滞在中に、ずっと衛生面に気を使ってはいたのだが、どうしても野菜が食べたくなってしまい、メトロポリタンレストランでサラダを食べた。割と大きなレストランなので衛生面も大丈夫だろうと思ったのだが、甘かった。その後、3日間書くに耐えないような下痢になった。食事では、生野菜でトマトなどの果実そのままの物は良いが、レタスなどで人の手で調理したサラダはほぼ当たる。
 その下痢のひどさといえば、日本では経験できないひどさである。ベップ君はカトマンズからポカラ行きのバスの中、バスが揺れるたびに思わず漏れるので、おしめをして行ったくらいだ。
 また、ある年のツアー客が、帰国後数日してからコレラと診断され、彼の職業がA食品会社だったため大騒ぎになったこともある。食品関係の職業の方は、下痢をしている場合必ず早めに病院で検査を受ける事を勧める。